make angel 〜chapter 1〜 yuki@yukki> ls 何が入ってるんでしょうかね。 yuki@yukki> cp ANGEL_1.02pre04.tar.gz ~ とりあえず、ホームにコピーしてと。 yuki@yukki> tar zxvf ANGEL_1.02pre04.tar.gz 解凍。 yuju@yukki> cd ANGEL_1.02 ディレクトリを移動して yuki@yukki> less README READMEを見てと。 yuki@yukki> ./configure  なんてしてみたものの、実はどんなプログラムが入ってるかなんて全然知らない。  どうせ、やつが持ってくるものなんて、腐ったクラックツールだろう。  闇雲に穴を探したり、他人のマシンを壊したり。見ず知らずの人にやって何が楽しいんだろう。  もうそんな子供じみたことは飽きたんだよ。これから目指すなら世界に名立たるハッカーにならないと!  まぁ、たまに教授やぼくの彼女を奪った先輩のマシンを壊してやりたくなることはあるけどね。  はぁ、"天使"なんて名前つけやがって。これを書いたやつの顔を拝んでみたいね。  誰かぼくにかわいい天使をくれ。  どうせぼくは頭も悪いし、カッコイイよくもないさ。どうせただのパソコンオタクだよ。 ほかに取り得もない。だからこそこうして、つまらない日々を送っているさ。  明日はレポートの提出日か。まだ書いてないな。後でさっさと書こう。レポート用紙5枚以上だったよな、確か。  そのくらいなら、適当に引用しまくれはどうにでもなるか。  と、コンパイルが終わったようだ。 yuki@yukki> make インストールの時は、'make angel'か。 yuki@yukki> make angel  ぼくのマシンに小気味いい音でこのプログラムがインストールされていく。  こうやって、またワケのわからないものが増えていく。  刹那、画面がフラッシュしたように感じた。  そして、画面から手が……。  一体どんなプログラムなんだ。  手はあまりにもリアルだ。  ぼくの方にのびてくる。  どんな仕掛けなんだ?  最近はFD1枚でこんなすごい3Dが表現できるのか?  ぼくは思わずその手を握りそうになった。  いや、握っていた。  実体がある!  そして、ものすごい力で引っ張られた。 「うわぁぁ!!!」  ぶつかる!  ものすごく強い力だ。ぼくはその力にそのまま体を預けるしかなかった。  どのくらい時間が経ったかわからないけど、ぼくはずっと気を失っていたらしい。  ゆっくりと目を開けると、そこは一面お花でいっぱいだった。 「死んだのかな……」  天国はきれいな花がたくさんあって、なんて話をしていたのをふいに思い出したりして。って、ぼくは天国に行けるほどいいことはしてない気もするけど。  立ち上がって見渡す。映画のワンシーンにありそうな、とてつもなく広くてきれいな草原だ。  小さな白い花が遠くまで咲き乱れている。  ぼくは、悪いと思いながらも花を踏みつつどことなく歩きだした。  本当にここは天国なんだろうか。それとも、夢でも見ているのか。  風が妙に気持ちよかった。あたたかい春風。  刹那、大きな爆発音がした。びっくりして、その方向を見ると、火の手が上がっている。少しして、また爆発音が聞こえた。 「一体何が起こっているんだ?!」  気がつくと、ぼくはその方向へ向かっていた。黒煙がもうもうと立ち上っている。  戦争でも起こっているのか?テレビでしか見たことないから、確信は持てないけれど。  だけど、ものすごく興味を持ってしまった。体中の血が騒いでいる、そんな気すらした。  その煙の方に近づいてくと、集落が見えた。けど、もう壊滅してしまっていて、誰もいないように見える。  丘から集落を見下ろした。  掠奪が始まっていた。  どこからか兵士らしき人たちが集まってきて、家の中に入っては出てくる。出てくる時は必ず何かをかかえている。それが人であったりもした。  何が起こっているの?そしてここはどこ?  考えても答えなんか出てこないか……。  ぼくはその集落が崩壊していくのを見ていた。助け出す?少なくとも、その時はそんなことなんか考えていなかった。まるで映画や夢を見ているようだったからだ。まるで第三者であるかのごとく。  どのくらいの時間が経っただろうか。太陽も傾きはじめていた。集落から上がっていた煙も、そして掠奪を行っていた兵士もなくなっていた。  どこからともなく、人が集落に戻ってきていた。どこかに避難していたのだろう。  ある人は泣き叫び、ある人は何かをののしっている。怒鳴る人もいた。  え?  ぼくはその怒鳴り声を聞いてびっくりした。自分が理解できない言葉を話していると思ったのに、なぜか彼らの言っていることが理解できたからだ。怒声は丘の上まで響いてくる。  いや、理解できたのではなくて、ぼくと同じ言葉を話しているんだ。さらに、ぼくはこの世界を夢だと思った。  ぼくは思い切って、集落のそばまで行ってみることにした。  まわりを見回すと、獣道らしきものがあったので、そこから下へと降りていくことにした。 「……だれか、だれかいませんか……」  声がする。弱弱しい声。女性の声だ。ぼくは声のした方へかけていった、 「どうかしましたか?!」  老婆が赤ちゃんと抱いて倒れている。体の周個所に火傷を負っていた。 「どなたかわかりませぬが、どうかこの娘を……」  老婆がおそるおそる差し出した赤ちゃんには、なんと羽根が生えていた。「もう、わたしは……」 「しっかりしてください!」  ぼくは叫んだ。 「わたしにはもう、この娘を育てるだけの時間も体力はありません。通りすがりのお方、お願いです。この娘を……」 「しっかりしてください!……あ、ちょっと待っててください!誰か呼んで来ます!」 「……その必要は……」  老婆はぼくの手をつかんだ。「あなたなら、この娘を……。」  いきなり赤ちゃんを渡されてもぼくはどうすることもできないよ!いや、とりあえず預かっておいて、誰かに託せばいいのか。 「わかりました。」 「よかった……」  老婆の顔に一瞬笑みが浮かんだかと思ったら、それはすぐに消えた。ぼくは手首に指を当ててみた。  止まってる。  心臓に耳を近づけてみた。  なにも聞こえない。  ぼくは老婆の腕から赤ちゃんを抱き上げた。赤毛の女の子だ。白い布にくるまれている。そして、背中には小さな白い羽根。  この世界の人にはみんな羽根があるんだろうか。老婆の服の間から背中を見ようかと思ったがためらった。そんなことしなくても、そのうちわかるだろうから。  そして、ぼくは再度、赤ちゃんを抱えて、集落に向かって歩き出した。  赤ちゃんはぼくの腕の中ですーすーと寝息を立てている。無邪気な寝顔だ。  ぼくは赤ちゃんの顔をのぞきこんだ。こんなにかわいいものなんだ。ぼくが生まれたときもこんな顔をしていたのだろうか。記憶がないのはあたりまえだが、写真すら見たことがない。それに、赤ちゃんをこんなに目の前で見るのも抱くのも初めてだ。  小さな手足。握り締めたら壊れてしまいそうだ。  また遠くで爆発音がした。  戦火の下で、この子はどんな人生を歩むんだろう、なんてふと思ってしまった。  自分のことも大事だけども。  ぼくは集落に向かって歩き出した。  その集落に着いたときには、もう陽は暮れていた。  ぼくは、もう持ち主のいない壊れた家屋のそばに座り込んだ。今夜はここで野宿をしよう。  うとうとし始めたころだった。赤ちゃんがいきなり泣き出した。 「おー、よしよし」  ぼくはあわてて赤ちゃんをあやしたけども、全然泣き止みそうもない。たかいたかーいとかしてみたけど効果なし!あぁ、ぼくには子どもを持つ資格はないのかなぁ……。はぁ。  と、前を見ると、誰かこちらに近づいてきていた。んで、なんも言わないで赤ん坊を抱き上げた。  その女の人が、赤ん坊を両手で抱いて、ゆりかごみたいにゆらしたら、赤ん坊はすぐに寝ちゃったよ!  ぼくはびっくりして、その女の人を見た。 「……すごいですね」 「この娘、どうしたの?」  ぼくの問いには答えず、その人は言った。どうしたのって言われてもな。ぼくは今までの経緯を話した。 「この娘は、『天使』だわ」 「『天使』?」 「簡単に言えば人形よ」 「え?」  どこをどうみたら人形なんだ?どうみても普通の人間にしか見えないんですが。羽根が生えていることを除けば。 「ものすごい速さで成長する人形よ。すぐに大人になるわ」 「どういうことなんですか?」  何がなんだかわからないよ。もっとも、この世界自体よくわからないけど。夢なのか現実か、すら。 「この娘をいると、必ずあなたは不幸になるわ」  そんなこと言われても。不幸になるかどうかなんてわからないじゃないか。 「私に渡さない?」 「それはイヤです」  何も考えずに返事してしまった。なんでかわからない。いつの間にか情が湧いていたのかも。 「なんだかわからないモノを、あなたは持っていようとするのね。私に渡した方がいいわよ」 「あなたはわかってるんですか?!」 「ええ、わかってるわ。私も一度『天使』を育てたことがあるもの」 「え?」 「私たちにとって、『天使』を育てることは一種のステータスだもの。あなた、なにもわかってないのね」 「わかるもなにも」  ぼくはこの世界の人間じゃない。 「仕方ないわね。説明してあげるわ。  『天使』は、そもそも戦うために作られたのよ……。」  もう、百年以上も昔のことだったろうか。  ドミトリ博士は、人間のようなロボットを作ることに専念していた。始めは金属剥き出しの人間には見えないものを作っていたが、そのうち、人工皮膚などを使って人間に似せたロボットが開発された。  そのロボットは、見た目人間と同じであったので、それを区別するために、博士はこのロボットを生産する際には、人間と区別するために羽根をつけるように言い渡した。  『天使』たちは、人間の言うことを聞き、戦った。しかし、生産できる数に限界があったため、その戦争の初期のころしか使われなかった。  その後のさらなる研究、特に生物学や心理学の分野での研究が進み、ロボットは一定の割合で成長し、マスターと呼ばれる持ち主の心をロボットの中に映すような物が出てきた。  ロボットには羽根があったので、みな『天使』と呼ぶようになった。  その数年後、発案者である博士が死んだ。殺されたとも伝えられているが、真偽はわからない。博士は、遺言に羽根のついていない『天使』の生産をしないようにと書いていた。  博士が死んでから、国王は『天使』の生産を禁止したが、博士の弟子たちは、こっそりと作りつづけていた。例えば羽根のないタイプなど、一見人間にしか見えないようなものなど。それらは間違いなくほとんど全てが性欲の捌け口として使われていた。  そのうち、弟子たちの間で、羽根のないタイプを作るのは、博士の意思に反するとする一派が現われ、弟子たちは分裂した。  一方は、金のためにひそかに『天使』を作り、そして、富豪たちに売っていた。一方は、研究成果を守るために、実験的に『天使』を作った。  そして、ついにほぼ人間に近づいた。成長速度を除いては。  研究の結果、『天使』は人間を同じものを食べて成長させることができるようになっていた。しかし、どうしても早く成長してしまう。いや、それは研究者たちが、何年も待つのが面倒だから、そうなっている、という話もあるが、正確なところはわからない。  一時期、『天使』は流通していなかったが、ここ数年、『天使』は闇市場で取引されるようになっていた。  始めは、赤子。そして、マスターの扱い方次第で性格が変化する。やさしいマスターに会えればやさしい『天使』になる。強欲なマスターに会えれば強欲な『天使』になる。  普通の人にはなかなか御しきれない代物であった。もちろん、ただ、従順に従うだけの『天使』も存在するが、それは、裏世界ではタブーとされている。そういうタイプは『メイド』と呼んで区別することが多い。  女性は『天使』について説明してくれた。ぼくは質問した。 「……あなたは、闇市場から『天使』を入手していたんですが?」 「ええ。これもきっとそうね。だけど、あなたに渡さないで、その人が捨ててしまえばよかったものを、なぜあなたに託したのかしらね」 「で、あなたが育てた『天使』はどうなったんですか?」 「天寿をまっとうしたわ。3年でね。死んだときは人間で言えば20くらいの感じだったかしら」 「じゃぁこの娘も……」  ぼくは赤ちゃんを見つめた。3年、か。 「闇で買う連中は、大体ペットを飼うような感覚で『天使』を買っているわ。だけどね、本当はそんなに単純なものじゃないのよ……」 「とは?」 「そのうちわかるわ」  もったいぶらないで教えてくれればいいのに、と思ったけど言えなかった。なんでかはわからないけど。 「ところで、あなた、ずっとここでいるつもり?」 「え、あぁ、はい」 「こんなところで過ごすつもりなら、うちに来ない?」 「え?」 「別に、『天使』を奪おうとか考えてないわ。安心して」  って、言われても……。うーん。でも、この娘が人間と同じ感覚をしているのなら、まじで野宿はやばいだろう。ぼくは、女性の顔をちらと見た。悪意はなさそうだけどもな……。 うーん。まぁ、ちょっとお世話になってみるか。 「ええ、じゃぁ……」 「こっちよ、いらっしゃい。……そうだわ、自己紹介がまだだったわね。私は、ファーラ。よろしく」  ファーラ、か。 「ぼくは、ユウキといいます。みんな、ユッキーって呼ぶけど」 「ユウキ。ちょっと変わった名前ね。で、その娘には名前はもう付けたのかしら?」  あ、そういえば。このままだったら、この娘は名無しになってしまう。どうしよう。そうだ、『ユウミ』にしよう。特に意味はない。今思いついただけ。 「あ、『ユウミ』って、つけました」 「今、思いつきでつけたのね」 「え?」  な、なんでわかるの? 「少々心を見ることができるのよ」  ファーラは答えた。ちょっと微笑んだ気もしたけど、すぐに元の顔に戻った。  ファーラは歩きだした。ぼくはそれについていった。しっかりとユウミを抱きしめながら。  彼女の家は、集落のすみの方にあった。木でできた小さな家だ。中はものすごく荒れていた。 「驚いた?ここも掠奪にあってしまったのよね……」  あぁ、さっきのか。  簡単な台所とテーブルとベッド、タンス。。ワンルームみたいな家だな。 「椅子にかけていて。お茶を入れるわ。ユウミはあのかごにでも寝かせてあげればいいわ」  ファーラは、大きめのかごを持ってきて、そこにタオルを引いた。ぼくはその中にユウミを寝かせてあげた。静かに寝息を立てている。  ぼくは椅子に腰掛けると、じろじろを家を見渡した。タンスの中身がこぼれ落ちている。 「あの、ファーラさん、かたづけましょうか……?」 「自分でやるわ。あ、『ファーラ』でいいわ」  ファーラは、やかんを火にかけると、適当にこぼれ落ちたものをタンスに突っ込んだ。結構適当な人なのかな。  ぼくは、しばらくして手伝わなくてよかった、と思った。さすがに下着を拾ったりするのはまずいだろう。  お茶が出てきた。いい香りがする。 「気分がラクになるお茶よ。疲れたでしょう。ゆっくりして」 「ありがとうございます」  少し青みかかった色のお茶だ。ラベンダーティーのようだ。  ぼくは、あらためてファーラを見た。年は20ちょっと過ぎか。金髪のストレート。きれいな色だ。でも、性格はきつそう。 「なんかおっしゃいました?」 「あ、いえ、なんにも」  そうだ、心を読まれてるのか。ちょっとやりずらいな。まぁいい。気にしないことにしよう。  ファーラは、この世界のこと、特に、今起こっている戦争について語ってくれた。  ここは、カッススという国らしい。そして、この集落はトゥク村というそうだ。ここは前線から少し離れた位置にあるので、それほど大きな被害は受けていないが、それでも、敵国、マユニカの兵士が来る。掠奪を目的に。  戦争自体は、膠着状態のようだ。 「そろそろもうおやすみになったら?」  ファーラが言った。そうだな、さすがに今日はもう疲れた気もするし、床ででも寝かせてもらおうかな。 「ベッドを使ってかまわないわよ」 「いや、いいですよ。それはちょっと悪い気が」 「ゆっくりおやすみなさい。これから何があるかわからないし。あ、その前にシャワーでも浴びたらいいわ」  ファーラはぼくの背中を押した。  せっかくだしシャワーくらいは浴びておくか。  小さなシャワールーム。 「バスタオル置いておくから」  外から声がした。  ふぅ、気持ちいいね。今日一日、よくわからないこと続きだったな。明日からどうなるんだろう。いや、何をしていいのだか。  ぼくは汗を落とした。  とりあえず今日は寝て、明日起きてから考えよう。深く考えてもきっと仕方ない。  ぼくがシャワールームから出ると、ファーラは床に寝床を作っていた。 「どうもすいません」 「あら、あやまることなんてないのよ。早くおやすみ。いつまた襲撃があるかわからないしね」  ファーラは、ベッドのふとんをめくると、ぼくを促した。 「はやくおやすみなさい」  そこまでしてくれるなら……って、ぼくは何を考えてるんだろう。  ベッドに横になると、今日の疲れが一気に出てきた感じがした。 「おやすみなさい」 「おやすみ」  ぼくは目を閉じた。でも、眠れない。  なんでだろう。  無理矢理寝ようとしてみた。  でも、眠れない。  あぁ、シャワー浴びてる音がする。  うーん。  どうしろと?  いや、ぼくはどうしたいんだろう。  とっとと寝たほうがいい?  とりあえず、寝たフリしてよう。  妄想が頭を駆け巡った。  音が止んだ。  ぼくは壁側を向いて、息を押し殺した。  別にそんなことする必要ないのに。どうせ、ぼくが何を考えてるかなんてバレてるんだ。 「そうね」 「うわぁっ!!」  突然声をかけられて大声を上げてしまった。そして、ぼくは飛び起きた。気配なんか全然しなかったぞっ! 「……素直になればいいのに」  首筋がぞくっとした。  ぼくのこわばっている体に、ファーラの指が、這う。  やめてくれー。理性がぶっとぶっ。  ぼくはファーラを見た。薄いナイトガウン。間から胸の谷間が見える。  血流が早くなった気がした。  もうどうにでもなれっ!  ぼくは、ファーラのナイトガウンをつかんだ。彼女はバランスを失って、ぼくに向かって倒れかかってきた。そして、ぼくはベッドの上に押し倒した。  ファーラの目を見た。ちょっと挑発的な目。ぼくはそれが気に食わなかった。どうなの、できるの?というような目。  ふざけるな。  ファーラのガウンをはいだ。抵抗しない。  挑戦なら、受けてたってやる。  くちびるを合わせた。からみつく舌。ファーラの手がぼくの髪をなでる。  耳。首。首のつけ根。肩。鎖骨。  ゆっくりとふれる。ときたま、ファーラの体が反応する。  腕。腕の関節。手首。手のひら。指先。  きれいなからだしてる。透き通るような白い肌。  ふっくらとした胸と桃色した乳首。  ぼくは服をすべて脱いだ。  気が付いたら朝だった。  ベッドの上で、はだかのままぼくとファーラは寝てしまったらしい。  ファーラはまだ寝てる。  ふと、ぼくはユウミが気になって、服を着るとベッドを降りた。  おどろいた。  昨日は赤ちゃんだったのに、もう2歳児くらいの大きさになっている。  ぼくはユウミをそっと抱き上げた。ちょっと重い。ユウミは目をこすった。 「おはよう、ユウミ」  語りかけるように、そっと声をかけた。 「オハヨウ……」  あ、少しは話せるのか。ちょっとたどたどしいけど。これは、すでにプログラミングされているのだろうか?それとも学習していくのだろうか。  昨日もきっと少しずつ成長していたのだろう。この速さで成長するということは、ぼくがユウミを手にしたとき、丁度生まれた、いや、生まれたのではなく、きっと稼動し始めた頃だったのだろう。  しかし、これは本当にロボットなのか?肌触りも人間そっくりだし、心臓に耳を近づければ鼓動がきこえる。 「ゴハン……」  ユウミがつぶやいた。おなかもちゃんとすくのか。本当によくできてるな。 「あぁ、そうだね」  ぼくたちの会話に気付いたのか、ファーラが起きてきた。 「すぐ朝食の用意をするわ」  言うと、すぐに食事の用意を始めてくれた。  ぼくはユウミを抱きつつ椅子に腰掛けた。 「ユウミ」  ぼくはつぶやいた。 「ユウミ」  ユウミはおうむ返しした。 「ユウミ」 「ユウミ」  ぼくが言うことをただ真似する。自分の名前が『ユウミ』であることがわかってないのだろうか。 「……おしっこ」  ユウミがつぶやく。 「はいはいはい」  ぼくはあわてて、ユウミをトイレに連れて行った。  あぁ、そういえば、ユウミに着せる服はどうしよう。ここまで大きくなったら、布だけというわけにもいかないな、なんて思っていたら、ユウミにぶたれた。 「痛っ」 「ひとりでできるもんっ」  ぼくはトイレから追い出されてしまった。  よくわからないなぁ。頭をかきつつ、また椅子に腰掛ける。  それを見てファーラがくすくす笑っている。 「そういうものよ。信じられないような速さで成長するもの」 「これはあらかじめプログラミングされていることなんですか?」 「ある程度はね。後はマスターの記憶を元に動いたりするわ」 「ぼくの記憶、ですか」 「どこかに触れたときに、データを持ってくるみたい」 「なるほど」  なるほど、じゃないよ。まったく不思議。それしか言いようがない。でも、見ていてやっぱりかわいいと思う……ぼくはロリコンか?  なんて考えてたら口元がゆるんでしまった。ファーラが不思議そうな顔でこっちを見ている。  あぁ、全部読めてるわけじゃないのか。ちょっと安心。でも、気は抜けないなぁ。  少しして、ユウミがトイレから出てきた。が、素っ裸だ! 「おい、ユウミ、布はどうした」 「ふにゅ?」  ぼくはあわててトイレを見に行った。ああ、やっぱりっ!便器の中に布がつかってるじゃないか。しかも、流してないし。仕方なく、ぼくは布を取り出すと、絞って、トイレの片隅にそれを置いておいた。 「服ならあるわ。気が付かなくてごめんなさいね」  ファーラはタンスの中から、子ども用の服をいくつか出してきた。前の『天使』に着せていたものだろうか。どれも、背中が大きく開いている。羽根を出すためだろう。  ぼくはその中から、白いワンピースになっているものを選んで、ユウミに着せた。もちろん、パンツもはかせた。 「寒くはないか?」 「だいじょうぶ」  ユウミは元気に答えた。スカートをめくったり、後ろを見ようとしている。こういうのは嬉しいのかな?  なんてしてるうちに、朝食がテーブルにならべられた。  トーストとサラダとスープが三人前。 「どうぞ、召し上がれ」  こんなまっとうな食事なんてどのくらいぶりだろう。 「いただきます」  さっそくいただくことに。  ユウミはスプーンとフォークをそれぞれの手に持って、サラダを食べようとするが、うまくいかない。ぼろぼろ下にこぼしている。 「ユウミ、貸してごらん」  ぼくは、ユウミのスプーンとフォークを取り上げると、フォークでサラダをつついて、ユウミに食べさせた。うむ、おとなしく食べてる。なんだかいとおしく感じてしまう。  赤毛に小さな羽根の生えた『天使』。  こんなまったりした日々が少しだけ続いた。  ユウミはもう10歳くらいの大きさになっていた。